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「優しい時間」
評価:
寺尾聰,倉本聡,二宮和也,長澤まさみ,大竹しのぶ
ポニーキャニオン
¥ 21,546
(2005-07-06)
わたしは田舎が好きだ。とりわけ、山の風景が。
岩肌を伝うせせらぎや、木漏れ日のきらめく山あいを訪れると、心底ほっとする。
そして、特に、田舎で人生をしっかり見つめ暮らす人々に惹かれる。

富良野は、ドラマ『北の国から』によると、静かに佇む町である。
同じく田舎で育ったわたしには、田舎暮らしの悠長な素朴さ、その反面にあるわずらわしさが、とてもよくわかる。

しかし、富良野の冬は、わたしの育ったところより、数段厳しいに違いない。
厳しい自然環境は、人を互いに思いやる気持ちにさせるだろうか――。

『優しい時間』は、『北の国から』のコンセプトを継承したドラマだ。
富良野で喫茶店「森の時計」をやっている主人公・湧井勇吉は、元エリート商社マン。海外赴任中に、妻を交通事故で失った過去を持っている。
この設定は、多忙な会社勤めと、喫茶店の経営者の比較になってい、さらに、都市生活と田舎暮らしの対照につながっている。

以前の会社の後輩・水谷が、「会社を辞め、秋田でペンションをやることにした」といって、妻と一緒に「森の時計」を訪れる。
再会を喜ぶ三人だったが、水谷の妻は、実は乳癌の末期だった。
彼女が緊急入院した夜、海外赴任の多かった水谷は、勇吉の前で、「どう計算しても、一緒に暮らしたのは五年弱しかないんです」と泣いた。
水谷の姿は、同じく海外赴任の多かった勇吉自身に重なる。
妻を亡くした男と、これから妻を亡くす男・・・・・・。

勇吉の妻は、息子の運転する自動車で、息子と言い争い、事故に遭った。
海外にいた勇吉は、妻の訃報を受け帰国・帰宅し、はじめて自分の息子が暴走族に入っていることを知った。
妻がひとりですべてを負っていた事実を知り、妻を死に追いやった風にも見える息子・拓郎を、勇吉は絶縁した。
会社を辞め、東京から遠く離れた富良野で、喫茶店を営んで静かに暮らすうち、訪れる客たちの身の上に、思わず自身を照らし合わせ、勇吉は、これまでの自分を省みることになる・・・・・・。

特に胸を打つのは、四話・五話。
電気店を経営する客・音成が、勇吉に借金を申し入れ、断られたあと、納屋で首をくくって死ぬエピソード。
勇吉は、音成に、「あなたのことを友人だと思うから貸さない」と、断った。

「お金を貸すと、友人を失う」とは、シェイクスピアの謂った言葉ではなかったろうか。
わたしも同感である。

しかし、勇吉が正論を振りかざした相手は、自殺した。
勇吉は、そこで大きく自身を省みる。

「自分には、人を傷つける冷たいところがあるのかな。傷つけるなら、傷つけられた方がいいって、いつも内心思ってるんだけどな」

問題は、謂ったことの正しさ云々ではないのである。

音成の妻が、「こんなにたくさんは受け取れません」と、勇吉の香典を返しに来るところ、「音成電気は、見事に倒産いたしました」の「見事に」に、夫を失った妻による、勇吉への精一杯の非難が込められていたと思う。

「森の時計」を訪れる客たちとの触れ合いを通して、勇吉は、絶縁中の息子・拓郎への想いを深めてゆく。
「拓郎は、誰かに愛されてるかな」
この台詞、『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い出させるなあ。

拓郎が暴走族に入ったり、腕に「死神」の刺青をして母親を悲しませたのは、会社の歯車となって海外赴任ばかりしている父親へ放ったシグナルだったのかも知れない。
勇吉は、妻子を愛しながらも終ぞ顧みなかった家庭を、妻を失い、子とは絶縁し、たったひとりになって、深く愛するようになる。
拓郎も、両親への甘えを捨て、陶芸で身を立てるため、ひとり、富良野とはほど近い美瑛の町で修行に励んでいる。
いつか、父と再会できる日を夢みながら・・・・・・。

愛し合う同士でも、狎れあってはいけない、ということを、勇吉と拓郎は、わたしに教えてくれる。
人は、自分の足でしっかり立つことができてはじめて、人を愛せるし、愛されることができる。

寺尾聰、大竹しのぶ、二宮和也、長澤まさみなど、透明感のある俳優たちが、適材適所。
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